
皆さんは女子野球ワールドカップの存在をご存知ですか?
あまり知られていない女子野球の世界大会ですが、日本代表は世界で圧倒的な強さを誇り大会6連覇を達成しています。男子野球の日本代表トップチームとは異なり、大学生が選出されることも多く、若い世代の活躍が目立ちます。
今回インタビューにご協力いただいた吉井萌美さんもW杯のセレクションに合格した当時は高校3年生。学生時代に日の丸を背負い、世界の野球を経験することはなかなかできることではありません。
3回のW杯を通して野球以外の面でも考え方が大きく変わったと語る吉井さん。
その経験と考え方の変化について紐解いていきたいと思います。
【吉井萌美(よしいもえみ)】1993年8月12日生まれ。神奈川県出身。
学生時代は女子野球の名門である埼玉栄高校・平成国際大学の女子野球部に所属。大学1年時から3大会連続でワールドカップ日本代表に選出され、その全ての大会で優勝に貢献する。大学卒業後は女子社会人野球のアサヒトラストでプレー。昨年、創部一年目のGOOD・JOB女子硬式野球部の選手兼コーチに就任すると、人数ギリギリのチームを牽引し全国3位の快進撃を見せる。部員数も増えた今年はコーチ業をメインに更なる躍進を目指す。
[日本代表歴]
2012年カナダ・エドモントン大会
2014年日本・宮崎大会
2016年韓国・釜山大会
<インタビュアー:小石涼(megaphone編集長)>
megaphoneでは「世界に向けて野球普及活動」の担当として、海外で活躍する女子野球選手やOGの方々への取材・記事作成を行っている吉井さん。今回は吉井さん自身のW杯での経験にスポットライトを当て、話を聞いていきたいと思います。
Contents
初出場は18歳 国際大会では左投手の役割の理解に苦しむ












女子野球においても高校や大学では先発完投が当たり前でした。
高いレベルの投手が集まるW杯では私の様な左ピッチャーは
ワンポイントとして起用されることが多かったのですが、
当時はワンポイントという役職の重要性を理解できていませんでした。
自分が選手として無能に思えて、とても悔しかったことを覚えています。



2回目ともなると気持ち的にも余裕は出てくるものですか?

年下の後輩も参加していたことが大きかったですね。
前回は先輩ばかりだったのでなかなかリラックスできなかったですが、
この大会は余裕を持って望むことができました。
前回大会の時に悩んでいた左ピッチャーとしての自分の役割についても
理解は深まっていたのでその面でも余裕はありました。


カナダのエドモントン大会の時は学生寮が宿舎だったんですが、
暑い季節なのにエアコンがなく、お風呂も湯船がなくシャワーだけでした。
慣れない環境の中でいつも以上に疲れるのに、
なかなか体の疲れが取れなかったのできつかったですね。
宮崎の時はリラックスできましたし、
ご飯もおいしかったので3大会通して一番思い出に残る大会です。


各大会オフが1日ありましたが、充実した休日を送れていたと思います。
カナダでのオフはみんなでショッピングモールに行って
買い物をしたのでとても楽しかったです。
お土産を少し買うくらいだったのでそんなにお金は使っていないですけどね。笑
自身の役割を理解し日本代表の5連覇に貢献



私が参加した3大会全てを振り返っても一番記憶に残っています。
私は出場しなかったんですけどね...


代表チームではワンポイントでの登板が多く、
投球回数も少なかったので申し訳なく思い、決勝の前日に両親に連絡をしました。
「代表ではワンポイントという立場だけど私はこの役職に誇りを持っている。決勝では投げない可能性の方が高いけど、出る出ないは関係なく応援してほしい」と伝えました。
自分自身の思いを打ち明けたことで、吹っ切れた気持ちで決勝戦を迎えることができました。
試合は日本代表が勝利し、W杯5連覇を達成しました。
私の出場はなかったのですが、チームの一員として素直に喜ぶことができました。

この時には完全に理解していたのですか?

そういった面での考え方はこの大会を通してガラッと変わったので、
学んだことは多かったと思います。
そういった意味でもやはり韓国大会の決勝戦が一番の思い出ですね。


W杯に参加しなければワンポイントという役職を理解することはできなかったので、
今までやってきたことが当たり前だとは思わず、
視野を広く持つことで余裕も持てるようになりました。
周りのこともよく見れるようになったとも思いますね。


開催の目処が立たないメキシコ大会ですが、
まずは無事に開催されることを祈っています。
私が過去のW杯で考え方が大きく変わったように、
W杯に参加する選手たちは野球以外の面でも様々な経験を積むことができると思います。
当然、日本代表には7連覇目指して頑張って欲しいと思いますが、
選手たちには世界から様々なことを吸収し、
それを今後の女子野球界発展のために活かしてくれることを期待しています。
3度のW杯を通して感じた世界の女子野球


その中で感じたことはありますか?



外国はとにかくパワーでという印象を投手目線では感じました。
あとは、投げ方はとても独特でしたね。
日本人に比べると体は硬いのに地肩は強いので送球が速かったり、
本当にとにかくダイナミックという言葉が似合います。


外国人選手は手足が長いので甘いコースには投げられないなと感じていました。
少しでも甘いコースにはいってしまうと、
日本人よりもパワーがあるので簡単に長打を打たれてしまいます。
外国人選手と対決する時は3球決め球を投げる気持ちで常に投げていました。


特にアジアのチームには女子野球の指導者がいないんですよね。
投げ方・打ち方にしても見様見真似でやっているので、
「よくあの投げ方で怪我しないな〜」と思うこともありました。
まず、指導者が充実していくことから女子野球の
世界的なレベルは上がっていくのではないかと思います。
女子野球普及の思いを持ち裏方へと転身

吉井さんは現在、2020年に発足したGOOD・JOB女子硬式野球部にコーチ兼選手として所属しています。登録人数がギリギリだった昨年は吉井さんもフル出場。創部一年目のチームを全国大会に導き、自身の好投もあり全国クラブ選手権大会3位という好成績を収めています。


現役から離れていた私がフル出場しなければいけないくらいですからね笑。
コロナで練習や試合ができなかったことも大変でしたね。
チームとして大変なことは多かったですが、たくさんの方々の
協力のおかげで全国クラブ選手権大会に出場することができ、
そしてそこで全国3位という結果を残せたのはすごく嬉しかったです。
1年目としてはできすぎたくらいじゃないですか笑。


周りの若い選手達のおかげで楽しく試合をすることができました。




まずはGOOD・JOBが率先して良い環境を作り、他のクラブチームや高校・大学、
そして世界中で女子野球に打ち込める環境が拡がっていくことが私の夢でもあります。


高校・大学の名門女子野球部出身で、3度のW杯出場経験を持ち、社会人でも名門クラブから新規チームまで女子野球の世界で様々な経験を持つ吉井さん。世界の女子野球を知る吉井さんならではの視点が女子野球普及・発展に向けて活かされることになると思います。現在も裏方を中心として女子野球に関わり続ける吉井さんはどの様に女子野球界に自身の経験を還元していくのでしょうか。その活動に今後も期待しています。
メディアを通じて発信することで女子野球の世界的な普及に貢献
吉井さんはW杯を通して海外でプレーした経験や、長年女子野球界に携わってきた人脈を活かし、世界で活躍する女子選手やOGの方々に取材を行い、その活動をmegaphoneを通じて発信することで女子野球の普及に貢献しています。
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