
セイバーメトリクス普及の影響もあり、MLBやNPBを始め男子野球界では『送りバントの有効性は低い』という認識が高まってきました。一方で、女子硬式野球の試合を観戦していると、ノーアウトのランナーを送りバントで進めるというプレーを目にすることは頻繁にあります。
女子野球も男子野球も同じ野球ではありますが、パワーや走力、得点の入りやすさの違いから『送りバントの有効性』は異なるものとなるはずです。今回は先日行われた全日本選手権全27試合のアウトカウント・走者別の得点確率・得点期待値を算出し、『女子硬式野球における送りバントの有効性』を考察していきます。
今回の全日本選手権のみからのデータ収集であり、各状況の試行回数も少ないため、データの信頼度は決して高いとは言えません。このデータが全てではなく、観戦時に少し見方を変えたり、女子野球ならではの戦術を考えるきっかけになれば幸いです。
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『女子野球は二死からほとんど得点が入らない』 全日本選手権における状況別“得点確率”

まず、全日本選手権27試合における状況別の“得点確率”がこちら。該当する状況からそのイニング終了までに得点が入る確率を表しています。無死一塁の場面で見ると、状況は全部で109回あり、そのうち得点が入ったのが43回のため、得点確率は39.4%というデータになります。
この表からは、無死で二塁以上のチャンスを作った場合に50%以上の確率で得点することができるということが分かります。今回の集計では無死で三塁に走者を進めることはほとんどなかったため、100%という極端な数字も出てきていますが、無死の場合の傾向はNPBにおける得点確率と類似しており、“一般的に認識されている得点の入りやすさ”から大きく乖離はしていないと考えられます。
一方で、二死一塁・二死一二塁からの得点確率はそれぞれ6.4%、9.8%とNPBのデータと比較しても極端に低いという結果に。長打が少なく、二塁からワンヒットで生還できる確率も低いということが影響しているためか、女子野球では二死から得点できる確率は低い傾向にあるというデータになりました。
『二死一塁からの得点期待値はわずか0.09』 全日本選手権における状況別“得点期待値”

全日本選手権27試合における状況別の“得点期待値”がこちら。該当する状況からそのイニング終了までに何得点入ったかを集計し、その平均を表しています。無死一塁の場面からは平均して0.72点入るというデータになります。
全体的な傾向としては得点確率の表と相関関係が高いデータとなりましたが、やはり気になるのは二死での得点期待値の低さ。二死一塁からの得点期待値はわずか0.09という結果に。二死一塁の状況は確率・期待値共に低く、『NPBにおける二死無走者≒女子野球における二死一塁』という数値が確率・期待値双方のデータにおいて当てはまります。
ここまでのデータから得点確率・得点期待値共にNPBと女子野球では少しずつ違うことが見えてきました。次項では上記データを元に、『女子野球において送りバントが有効な戦術なのか』ということを考察していきます。
『一死三塁の状況を作ることで得点確率は大きく上昇』 “得点確率”から見たバントの有効性

“得点確率”の面から見た送りバントの有効性がこちら。今回収集したデータの中では、無死からの送りバントについては一塁、二塁、一二塁の全ての状況で確率が上がるという結果になりました。一方で一死からの送りバントについては、二塁のみわずかに上昇し、他の2つの状況については確率が下がるという結果になりました。
得点確率が上昇する状況の中でも特に上昇量が多いのが、無死二塁と無死一二塁の場面。この2つの状況ではそれぞれ17.7%、18.6%上昇するというデータになりました。前項の表でも無死または一死で三塁に走者がいる場面での得点確率が極端に高かったことからも、女子野球ではいかに一死までに三塁まで走者を進めることが重要なのかということが見えてきます。
『無死からの送りバントは女子野球では有効な戦術』 得点期待値から見たバントの有効性

続いて、“得点期待値”の面から見た送りバントの有効性がこちら。このデータでは無死からの送りバントは三つの状況全てで得点期待値が上昇する一方で、一死からの送りバントは得点期待値が下がるという結果になりました。
特に無死一二塁からの送りバントは得点期待値が0.56上昇するというデータになっています。この状況は前項の“得点確率”の点から見ても18.6%上昇するというデータになっており、無死一二塁からの送りバントは非常に有効な戦術であると考えられます。
得点確率と得点期待値を合わせて考えると、『無死での送りバントは有効な戦術』『一死からの送りバントは有効な戦術ではない』と考えることができます。もちろんデータ数が圧倒的に少ないため、確実にこの通りであるとは言えませんが、戦術を考える際の参考にはなるのではないでしょうか。
まだまだ数値化できていない女子野球 データから見ることで新たな楽しみ方を

先日の全日本選手権の状況別得点確率・得点期待値から『女子野球の戦術』について考察、いかがでしたでしょうか。近年、急激に拡がりを見せている女子野球だからこそ、そのデータや戦術はいまだに確立されていない部分も多く、これから更に発展していく余地がある部分だと思います。
数値化できない魅力や現地観戦でしか分からない楽しさもある女子野球ですが、違った角度から見てみることでまた新たな楽しみ方もできるのではないでしょうか?
megaphoneでは引き続き、女子野球の成績や記録から戦術やセオリーの考察をしていきたいと思います。