
高校女子野球甲子園開催や、西武・阪神の参入でも話題となっている女子野球。
しかし、その魅力や男子野球との違いはまだまだ知られていないように感じます。
今回はmegaphone編集長が考える「女子野球の見どころ5選」を紹介していきます。
Contents
ここが見所!
7イニング制
ーー野球における2イニングの差が生む戦術の違いは?
ライトゴロって何?
ーー同点の最終回裏の守備、二死三塁で打球は一・二塁間を抜けた。何を狙う?
ーーライトゴロを狙うための守備の動きに注目!!
パワーやスピードを技術で補う
ーー女子野球の試合で長打が少ない理由を考察
ーーパワーやスピードを技術で補う女子選手たちのプレーに注目!!
ホームランは男子の何倍の価値がある?
ーーNPBと女子プロ野球の年間ホームラン数を比較
ーー応援する選手のホームランを現地で!!
女子野球の戦術は未完成
ーー女子野球はセイバーメトリクスには当てはめて考えることができるのか?
ーー新戦術の考察も楽しみ方の一つとなる
7イニング制によるテンポの良さと試合時間の短さは女子野球の魅力の一つ

男子野球と女子野球の大きな違いの一つがイニング数の違いです。男子高校野球やプロ野球は9イニング制であるのに対して、女子野球は高校・大学・社会人・国際大会の全てが7イニング制で行われます。
7と9という数字だけを見ても大きな違いはない様に感じるかもしれませんが、野球におけるこの2イニングの差は戦術面に大きく影響してきます。高校野球やプロ野球など、女子野球以外の野球ファンの方々も「もし7イニング制だったら」ということを想像すると2イニングの差による影響がよくわかると思います。
高校野球では、8回・9回の土壇場で試合がひっくり返るという試合は頻繁に目にすることでしょう。近年のプロ野球では、セットアッパー・クローザーが各チームで役割を確立して8回・9回を担っていることがほとんどです。
女子野球にはその8回・9回がないので、先発投手の重要性や中継ぎで登板する投手の難しさ、序盤の一点の重み、チーム作りで守備力を重視すべきか、何人の投手を擁して戦うべきなのかなど、9イニング制の野球とは違う視点で考えることがたくさんあります。
男女それぞれの日本代表メンバーからも違いは読み取ることができます。東京オリンピックの男子代表はロースター枠24に対して投手が11人ですが、マドンナジャパンはロースター枠20に対して投手は7人。当然、1人の投手にかかる負担は大きくなるため、完投能力や球数を減らす投球術が求められることになります。

試合時間という観点から見ると、男子高校野球で2時間、プロ野球だと3時間程度ですが女子野球では1時間半程度しかかかりません。単純にイニングが短いこともありますが、女子野球の投手ならではの配球や投球術といった部分からくるテンポの良さも試合時間短縮に貢献しているように感じます。

近年の猛暑や環境面への配慮、選手の負担軽減といった観点から、野球の試合時間軽減は今後必ず必要となってくる課題でしょう。また、「野球観戦をしよう」と思った時に、試合時間の長さはどうしてもウィークポイントとなってしまいます。野球界全体の更なる発展に向けて、女子野球の試合時間の短さやテンポの良さはヒントとなるのではないでしょうか。
男子野球と異なる点として7イニング制をあげましたが、少年野球・中学野球・草野球は7イニング制で行われています。女子野球界では現在、プロ野球の指導経験もある監督・コーチが指導者を務めることも多くなっています。小中学生はプロ野球選手に憧れ、プレーを参考にしていることが多いですが、7イニング制ならではの継投や戦術、イニングごとにおける基本的な考え方を女子野球から学ぶことができるのではないでしょうか。
同点の最終回裏の守備、二死三塁で打球は一・二塁間を抜けた。何を狙う?

同点の最終回裏の守備、二死三塁で打球は一・二塁間を抜けた。男子野球であればこの時点で「サヨナラ負けだ」と肩を落とすところですが、女子野球界でプレーする選手であれば「ライトゴロだ」と即座に考えることでしょう。
ライトゴロは男子高校野球やプロ野球ではめったに見ることができないプレーですが、女子野球では頻繁に起こるプレーです。外野守備位置が浅い女子野球では、状況次第でセンターゴロやレフトゴロを狙うことも可能です。
ライトゴロを狙えるということは戦術面にも大きく影響を与えることになると思います。
右打者への配球をアウトコース中心にする、一・二塁を大きく開けるシフトを敷く、ライトにゴロ処理能力の高い選手を配置するなどのことが考えられます。攻撃面では外の球をいかに処理するか、逆方向に強い打球を打てる選手の貴重さなどが見どころになります。

女子野球ではライトゴロが頻繁に起こるとは言いましたが、打球が飛んだ瞬間に「ライトゴロがある」と思って動き出さなければ成立するプレーではありません。逆に、打者が「ヒット」だと気を緩めた走塁をすればセンターゴロでも成立してしまいます。
女子野球観戦時にライトゴロを見た時、「女子は外野が浅いから」と思うのではなく、打球に対してどの様な一歩目を切っていたか、それに合わせた一塁手や投手の動きなど選手たちの意識の部分にも注目してみてください!!
パワー・スピードの差はどこで埋めている?

男女の野球を比較するとき、パワーやスピードの違い感じてしまうのもです。では技術面ではどうでしょうか。野球のプレーからパワーやスピードといった部分を除いた、純粋な“技術力”というものを比較することは難しいことですが、筆者は女子野球の試合を観戦する中で長打が少ないことから女子選手たちの技術力の高さを感じました。
男子と比べて打者のパワー・スピードはないですが、守備側の打球を追いかけるスピードや返球に必要な遠投力も同じようにないはずです。それでも長打が少ないということは、純粋なパワー・走力が求められる攻撃側に対して、打球への入り方や中継プレーの正確さなどの技術力で守備側が優位になっているということではないでしょうか。
実際に先日の全日本選手権観戦時にも、「ツーベースになりそうだ」と思った打球が外野手の素早い処理と正確な中継プレーによってシングルヒット止まりといったシーンを何度か見ました。
長打が少ないということは、結果的に四死球を与えないことの重要さということにも繋がり、前述の試合テンポの良さにも繋がっていると思います。そして、1点や1人の出塁、1つのエラーや好プレーの重要性が高まり、レベルが上がるにつれてロースコアの緊迫したゲームが楽しめます。
レーザービームの様な派手なプレーではありませんが、外野手の打球への入り方、内野手の中継プレーの上手さなどに注目すると女子選手の技術力の高さが見えてくることでしょう。
ホームランは男子の10倍の価値? 現地で応援する選手がホームランを打つ瞬間を!!

男子野球と同じ規格の球場で行われている女子野球ではホームランはほとんど見ることができません。女子野球におけるホームランはどれだけの価値があるものなのでしょうか。NPB・女子プロ野球共に有効なデータが取れる2019年シーズンのホームラン数で比較してみたいと思います。
2019年シーズンにおける各リーグのホームラン数は、
NPB:1,688本(セ:837本/パ:851本)
女子プロ:15本
NPB=12球団、女子プロ野球=3球団なので、1チームあたりのホームラン数は、
NPB:1,688÷12=140.67
女子プロ:15÷3=5
NPB=143試合、女子プロ野球=66試合が行われたので、1試合に換算すると、
NPB:140.67÷143=0.98
女子プロ:5÷66=0.076
NPB=9イニング、女子プロ野球=7イニングなので、1イニングあたりに換算すると、
NPB:0.98÷9=0.11
女子プロ:0.076÷7=0.011
つまり、NPBではおよそ9イニングの攻撃で1本程度ホームランが出るのに対して、女子野球では90イニングの攻撃で1本程度と、その珍しさには10倍程度の差があるということになる。

ホームランは野球の醍醐味でもあり、なかなか見ることができないというのは寂しいかもしれませんが、観戦した試合でホームランを見ることができれば、その喜びは10倍感じることができるかもしれません。
女子野球観戦の一つの楽しみ方として、「あの選手のホームランを生で見ることができた!」「ホームランの瞬間を写真に収めることができた!」といった見方をすることもできるのではないでしょうか。
女子野球の戦術は未完成 一ファンでも様々な可能性を考察できる?

メジャーリーグのセイバーメトリクスから始まり、日本のプロ野球でもデータを活用した野球が流行しています。
「2番には小技が使える打者をおくべきなのか」
「先頭打者が出塁したら送りバントで得点圏に進めるべきなのか」
「打率と長打はどちらを重視した方が得点に繋がるのか」
といった古くから議論されてきたものが、データによって何が正しいかある程度数値化された状況にある。野球の戦術面が発展したと考えると喜ばしいことではあるが、指導者や選手が試合中に考える戦術による差は小さくなり、観戦しているファンにとっても議論の余地がなくなってしまっているとも考えられます。
一方女子野球では、MLBやNPBほどのデータ量はなく、選手やチームのレベルも数年で飛躍的に上昇しているため、“正しい戦術”というものは確立していない様に感じる。守備シフトや打線の組み方、攻撃パターンなどの戦術も確かなものがないため、「男子とはどの部分を変えたほうが良いのか」「女子野球ならではの何か新しい戦術はないか」など、一ファンでも勝手に考えをめぐらせることができます。
試合を見ながらなんとなく考えてみた戦術が、何年後かにどこかのチームが使っているということが起こる可能性もゼロではないと思います。当事者よりも俯瞰的かつ客観的にフィールド全体を見ることができるファンの特権として、その様な楽しみ方もありではないでしょうか?
また、NPBや男子社会人野球での指導経験がある監督や女子野球界での指導経験が長い監督、女子野球選手として第一線で活躍した後に就任した監督など、近年の女子野球チームの監督の経歴は多岐に渡ります。

ファン目線でも、「この監督は女子野球の戦い方を熟知している」「このチームは今までの女子野球にはなかった戦い方だ」「このチームの指導者は女子選手の心理を理解した戦術を立てている」という部分も感じ取ることができるかもしれません。
監督や指導者の経歴、チームの創設経緯などからチームカラーを考察してみることも女子野球の一つの楽しみ方だと思います。
現地観戦で女子野球の魅力を発見してください!!
本記事内で挙げた5つの見所は女子野球の魅力の内のほんの一部でしかありません。
女子野球の魅力は現地で観戦してこそ気づくことも多く、どこを魅力的だと感じるかは人それぞれだと思います。コロナウィルスの影響により、全ての試合を現地で観戦できるわけではないですが、ぜひ感染症対策をした上で女子野球を観戦して欲しいと思います。
この記事を読んでくださった女子野球選手やチーム関係者、ファンの方々!この5選以外にもたくさんあるであろう女子野球の見どころをなんらかの形で発信していただけたらと思います。
この記事やそれらの発信によって、新たに女子野球の魅力に気づく人が増えることを期待しています。