
2021年4月28日、女子野球の歴史が動いた。高校女子野球の全国大会が阪神甲子園球場で行われることが決定した。
甲子園球場で開催される試合は決勝戦のみであるが、全国高校女子硬式野球連盟と全日本女子野球連盟によって、今夏の全国高校女子硬式野球選手権大会の決勝を第103回全国高校野球選手権大会の準々決勝後の休養日にあたる8月22日に阪神甲子園球場で行うことが発表された。(雨天順延の影響で8月21日14:30に変更済み・8月15日現在)
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神戸弘陵学園高校と高知中央高校が甲子園出場を決定
今夏で第25回となる大会は7月24日に開幕し、8月1日の準決勝までを例年通り兵庫県丹波市で行われた。その後、決勝を男子の大会の休養日に甲子園球場で実施する。全国で2校のみしか甲子園の舞台に立つことはできないが、1997年から続く女子高校野球においては初めてのことである。高校野球=甲子園というイメージは根強く、女子選手の中でも大会の甲子園開催を望む者は多かった。男子高校野球と同じステージにたったとはまだまだ言えないが、今回の決定は女子野球界にとって大きな追い風となるだろう。
1997年に東京都福生市で第1回大会が行われ、第8回から兵庫県丹波市に移転。それ以降は丹波市と全国高校女子硬式野球連盟によって主催されている。昨年はコロナ禍で中止となったため、2年ぶりの開催となる今夏の25回大会は史上最多の40校が参加。朝日新聞社が後援し、阪神甲子園球場が特別協力する。
憧れの甲子園への切符を手にすることができるのは全国でわずか2校。2016年以来2度目の優勝を狙う神戸弘陵学園高校と初の決勝進出を決めた高知中央高校がそれぞれ準決勝を勝ち上がり、高校女子野球では初となる“甲子園出場”を果たす。
昨年はコロナ禍の影響で各種スポーツ大会が中止となったため、夏の高校野球全国大会は男女ともに2年ぶりの開催となる。今年の日程は以下の通り。
【男女高校野球 大会日程(8月15日現在)】
・7月24日(土) 高校女子開幕(丹波市)
・8月01日(日) 高校女子準決勝(丹波市)
・8月10日(火) 男子甲子園開幕
・8月21日(土) 女子決勝(甲子園・第3試合)
・8月25日(水) 休養日
・8月26日(木) 男子準決勝
・8月27日(金) 男子決勝
現役女子野球選手・岡田桃香の思うところ
女子高校野球が甲子園で開催されることについて、当事者である女子選手はどの様に感じているのだろうか。
現在GOODJOB女子硬式野球部でプレーする岡田桃香選手に話を聞いてみた。岡田選手は高校時代、甲子園に対する強い憧れから女子野球部ではなく男子野球部で活動するという選択をしている。


実現されるというのは本当にすごいことだと思います。
選手として甲子園の舞台に立つことができるのは男女関係なく、
野球人として本望だと思うんですよね。


男子だから、女子だからとかは関係なく、
ほとんどの選手が甲子園に憧れを抱いていると思います。


当時は女子野球部では甲子園は目指せなかったので、
男子硬式野球部に所属するという選択をしました。


全国にはまだまだ男子硬式野球部に
所属する女子選手もたくさんいると思います。
女子野球部が近くにない、家の事情で県外に行けない
という理由もあるとは思いますが、
「甲子園を目指したい」という思いから
男子野球部を選択した選手もいるとは思うので...

「女子野球部で甲子園へ」という目標を持つ選手も増えると。

今まではスタンドでもいいから甲子園を目指せる
男子野球部に入部するという選択肢しかなかったと思います。
今回、高校女子野球の決勝戦が甲子園で行われることによって、
新たな選択肢が生まれたので、
そこを目指す選手たちが増えるのではないかなと思いました。


「女子も甲子園でプレーできるんだよ」
ということを下の世代の子供たちに伝えることで、
女子野球の普及に協力できたらいいなと思います!
『甲子園』によって成長する『女子野球』
女子全国大会は男子の都道府県予選が行われている時期に当たる7月24日から8月1日までに初戦から準決勝までを兵庫県丹波市の2球場を用いて行われた。男子の場合、夏休みの開始前後に合わせて予選もスタートすることが一般的だが、女子は予選は行われず、全国大会からのスタートとなる。全国の加盟校は2021年4月時点で40校と、男子のおよそ100分の1程で、加盟校が存在しない都道府県も多く、予選を行う必要がないという現状である。
今大会の甲子園開催が決定したことにより話題にはなったが、女子高校野球の認知度は低く、中学で野球をプレーしている女子選手でさえも存在を知らないということもある。加盟校数や競技人口の格差から甲子園球場で女子の大会を開催することの反対意見も一定数存在するが、野球選手なら『甲子園でプレーしたい』と誰しもが思うことである。今回の決定により、女子高校野球は広く認知されることとなり、競技レベルは自然と向上していくことだろう。『甲子園』というコンテンツは『男子高校野球』によって育てられた側面を持つが、発展途上にある『女子高校野球』を『甲子園』が育てるという逆のケースで女子野球全体が盛り上がっていくことに期待したい。
『甲子園』の力を借りて『女子高校野球』を育てるという考え方をするのであれば、男子の休養日に決勝戦を行うのではなく、男女の決勝戦を同日に行うという方法もある。早朝から日没まで試合をしているイメージも強い甲子園だが、決勝戦は例年14:00から行われる。連日にわたり終日使用していた球場も午前中は使用することができるはずだ。男子の決勝戦が行われる直前の午前中に女子決勝を行うことで、集客や知名度の向上も期待できないだろうか。グラウンドの管理や観客の動員方法等、簡単にできることではないものの、実現されれば更なる話題を呼ぶことにもなるだろう。
先述の通り、女子高校野球の加盟校は40校と男子のおよそ100分の1程しかない。甲子園の舞台に立てる高校数は男子が49校/4000校、女子が2校/40校ということを考慮し、比率から計算するとその格差は4倍程度となる。他の要因を無視した単純な計算ではあるが、女子高校野球の加盟校数が現在の4倍である160校程度まで増加すれば、競技人口の少なさを理由とした反対意見もなくなることだろう。男子と同程度の4000校を目指すとなると途方もない話ではあるが、160校は近年の増加率から考えても現実的な数字である。決勝戦の甲子園開催にも後押しされる形となり、男子との格差は縮まっていくだろう。
甲子園開催で盛り上がる高校女子野球 決勝戦の見所は?
女子高校野球の甲子園開催が注目を集めているが、準決勝と決勝戦の間に女子野球の全日本選手権大会が開催された。この大会は8月7日から8月12日の6日間に渡って愛媛県松山市で世代の枠組みを超えて行われた。高校・大学・社会人チームが参加することが可能で、女子野球最大のイベントとも言われている。
決勝戦が中止となり、栃木県の企業チーム・エイジェックと岡山県のIPU環太平洋大学の両チーム優勝という形で第17回大会は幕を閉じた。甲子園開催によって盛り上がる高校勢は大学・社会人相手に奮戦し、参加校6チームの内5チームが一回戦を突破するなど躍動が目立った。
全日本選手権高校勢の活躍はこちらから
【1日目】全日本女子硬式野球選手権大会(神戸弘陵・岡山学芸館・秀岳館 1回戦)
【2日目】全日本女子硬式野球選手権大会(履正社・神村学園 1回戦)
【3日目】全日本女子硬式野球選手権大会(京都外大西 1.2回戦/神戸弘陵・岡山学芸館・秀岳館・神村学園 2回戦)
【4日目】全日本女子硬式野球選手権大会(岡山学芸館 準々決勝)

女子野球は使用するボールや投本間・塁間の距離に男子との差はないが、異なるルールも存在する。大きな違いの一つとしては7イニング制という点である。男子高校野球と比較すると投高打低であるため、試合は1時間半程度で完了する。野球観戦のウィークポイントの一つに試合時間の長さがあげられることが多い。また、近年では熱中症や投球数過多による選手への負担が問題視されている。女子野球のテンポの良さは野球人気の更なる向上や選手の負担軽減へヒントになることも多いのではないだろうか。
男女の高校野球を比較した時に他に異なる点として指名打者制度の有無とベンチ入り可能人数の差があげられる。男子の高校野球では指名打者制はなく、甲子園でのベンチ入り可能人数は18人である。一方で、女子は選抜・選手権共に指名打者制を採用し、ベンチ入り可能人数は25名と男子よりも7名も多い。競技を続ける選手が少ない中で、少しでも多くの選手にチャンスを与えようという意図も感じられる。大音量のブラスバンドはなく、スタンドからの応援は少ないが、選手たちの声やベンチの賑やかな雰囲気を感じ取れることができるのは女子野球の魅力の一つである。
女子野球界にとって間違いなく歴史的な年になるこの機会に是非注目してみてはいかがだろうか。夢の甲子園という舞台で躍動する選手たちの姿を今から期待したい。