
「直球」「コントロール」「変化球」「長打力」「バットコントロール」「走塁」「守備」の計6部門で100人の女子野球選手にアンケート調査を行いました。
今回は長打力部門で最多票を獲得したエイジェック・川端友紀選手にお話を聞かせていただきました。

【川端友紀(かわばたゆき)】
1989年5月12日生まれ。大阪府出身。
[経歴]
和歌山商業高校(ソフトボール)
シオノギ製薬(ソフトボール)
京都アストドリームス(2010-2012)
イースト・アストライア(2013-2014)
埼玉アストライア(2015-2018)
エイジェック女子硬式野球部(2019-)
[日本代表歴]
2012年 第5回女子野球W杯
2014年 第6回女子野球W杯
2016年 第7回女子野球W杯
2018年 第8回女子野球W杯
2021年 第9回女子野球W杯(開催延期)
日本代表に5回選出された経験をもち、今季もエイジェックの4冠達成に主軸として貢献した川端選手に、打席での心構えや長打力の秘訣となっている練習方法についてお話しいただきました。
Contents
「遠くに飛ばす」ではなく「強い打球」 川端選手の打席の中での意識は?


小石
今日はよろしくお願いします。

川端選手
よろしくお願いします。

小石
まずは長打力部門1位の感想をお願いします。

川端選手
私自身、「遠くに飛ばそう」「長打を狙おう」という考えで打席に入ったことはほとんどないですが、ホームランを打ったり、長打を打てるバッターは魅力的だと思うので、結果的であれ選んでいただけたことは光栄に思います。

小石
ヒットを狙っていて結果的に長打になるということですか?

川端選手
そうですね。あまり、長打を狙いにいって大振りしてもいい結果は生まれないと思っているので、どちらかというとコンパクトに強い打球を打つというイメージで打席に入っています。「長打狙ったろ〜」という気持ちで打席に入ることはないです。

小石
それはどの場面でも同じ考え方ですか?

川端選手
2アウトランナーなしでここは一発欲しいなという場面もあります。そこでは大振りをするのではなく、“強い打球”ということを意識しています。カウントだったり、試合の状況でバッティングの意識を変えたり、強振はしますけど、大振りして「ホームラン打ったろ〜」ということではなく、強い打球でしっかり捉えようという気持ちで打席に入ります。

小石
「遠くに飛ばす」ではなく「強い打球」という意識が重要?

川端選手
そうですね。ただ、練習の時は遠くに飛ばす練習であったり、打球の質・打球の速さを意識した練習をたくさんします。特にここ1.2年は練習の時に“ホームランを打てるスイングの強さ”というのを身につけるために取り組んではいます。それが試合で結果として出せるかどうかというのは私にとってまだまだ課題です。

小石
練習と試合では意識を変えている部分があると。

川端選手
練習中はしっかり強く鋭いスイングで柵越えできるようなスイングをイメージしています。ただ試合の中ではピッチャーは抑えよう、タイミングをずらそうとして投げてくるので、それをやってしまうとアジャストするのはすごく難しいことだと思います。試合ではピッチャーにタイミングを合わせること、強く鋭い打球を打つことを意識しています。
バッティングに繋がる筋力トレーニングで力強いスイングを身につける


小石
長打力の秘訣になっている練習はありますか?

川端選手
やっぱり一つはトレーニングです。トレーニングといっても、ウェイトトレーニングの様な「重いものをガンガンやる」というわけではなく、「バッティングに繋げるためのトレーニング」というのをエイジェックにきてから取り組むようになりました。もちろん、ウエイトのような基礎トレーニングもすごい大事なんですけど。

小石
バッティングに繋げるというと?

川端選手
トレーニングしながらバッティングの練習もするという練習方法です。これをするようになってから、バッティングに繋がりやすいトレーニングができるようになったので、それで飛距離も伸びたのかなということを実感しているので、その練習方法が長打力には繋がっているのかなと思います。

小石
トレーニングしながらバッティング練習というと?

川端選手
例えば、ティーバッティングを設置しておいて、その横にトレーニングをできる道具・スペースを確保しておいて、トレーニングをやってすぐティーバッティングというような。リストの強化をした後であったら、リストが効きやすくなる。下半身に刺激を入れた後だと、腰の回転が鋭くなるというように、トレーニング・バッティング・トレーニング・バッティングということを繰り返すことで、トレーニングしたところを意識しやすい状態でバッティングもできます。これを繰り返すことで、試合になった時に身体の使い方のイメージを再現できるという練習をしています。

小石
どのようなパターンがありますか?

川端選手
よくやる1つ目は、メディシンボールを壁にぶつけて下半身との連動を意識するトレーニング。これをやった後のティーバッティングは腰の回転が鋭くなります。

川端選手
2つ目は、ロープを使ったリストのトレーニング。これは反対側の先が繋がった大縄を縦に振ったり横に動かしたり、回したりというトレーニングです。このトレーニングでリストを強化した後にバッティングをやると“ヘッドが勝手に走る”くらい使えるようになります。
参考記事1:スポーツナビ/バトルロープでトレーニング! 全身を効果的に鍛えよう

川端選手
3つ目は、足の指のトレーニングです。足の指はトレーニングし辛い部分ですが、バッティングには凄い重要です。地面に接しているのは足の裏だけなので、そこで噛めるかどうかでスイングの強さが変わります。台の上に足の指だけを乗せて上げ下げするという方法です。それで足の指にしっかりと刺激を入れた状態で、しっかり噛んだ状態でバッティングできるか意識します。

川端選手
4つ目は、バランスボードを使います。バランスボードに軸足を乗せたまま、トレーニングをしながらバッティングをするという練習です。

小石
エイジェックの選手はみんなこの練習を取り入れているのですか?

川端選手
そうですね。宮地ヘッドコーチがこういう指導方法をしているので。長打を狙っている選手ばかりではないですが、基本的にはみんなやったことはあると思います。他にもやり方はいろいろあるので、強いスイングを身につけるという意味ではすごく良い練習方法だと思います。

小石
練習中に意識していることはなんですか?

川端選手
「全力で振る」ということです。簡単なように思えてなかなかできないです。どんなに打ちやすい緩くてタイミングの取りやすいボールでも、全力で振ってミートすることはすごく難しいことです。

小石
無意識の内にボールに合わせるスイングになってしまいがちですよね。

川端選手
はい。7.8割でミートすることは簡単なので…全力で振る練習として、正面ティーで120%でスタンドインするという練習を特に多くやっています。

小石
力強いスイングが身につきそうですね。

川端選手
そうですね。そしてめちゃくちゃ疲れます(笑)多分、連続で10スイングしたら倒れ込むくらいフルスイングしています。

小石
その感覚を身につけて試合でも長打を打てるようになると。

川端選手
練習で120%で振れるようになると試合で100%に近いスイングができると思います。それでも80.90%位にはなってしまいますが… なので、練習の時から8割9割で打っていると、5割6割になってしまうというイメージです。女子のパワーだと5割6割のスイングで外野の頭を越すというのは難しいと思います。練習の時からティーであってもフリーバッティングであっても強いスイングを身体に覚えさせる。それがどんどん強くなっていけば試合でも強いスイングが実現できるかなと思います。そうすると打球も速くなるし飛距離も伸びるのかなと思います。
良いイメージと冷静な気持ちを持って打席に 兄・川端慎吾からも学ぶ試合中のメンタルの作り方


小石
チャンスの場面ではどのような気持ちで打席に入っていますか?

川端選手
良いイメージを持ち、冷静な気持ちで打席に入るということが一番良い結果に結びつくのではないかなと思います。「打てなかったらどうしよう」とか、弱気な気持ちで入るとなかなか良い結果が出ないというのは想像できると思います。ただ、逆に絶対打ってやると思っても、肩に力が入って思ったようにバットが出てきません。そのさじ加減というのはすごく難しいとは思うのですが...

小石
頭では理解していてもいざ試合になると難しそうではありますね...

川端選手
普段の練習から、そういう想定をするということが凄い大事なのかなと。練習では良いスイングができても、試合になったらメンタル面に左右されてしまうというのはすごくもったいないことです。なので練習の時から、2アウト満塁サヨナラの場面というのをイメージしています。

小石
なるほど。普段からの意識が試合での冷静なプレーにつながっていると。

川端選手
これはバッティングだけではなくて、守備でも走塁でもなんでもそうだと思います。普段から試合を想定した練習ができていれば、メンタルに余裕を持てたり、「練習してきたから大丈夫」と思える状態を作れるのかなと。そこが一番大事なのかなと思います。

小石
お兄さんの川端慎吾選手は今季代打としてプレッシャーのかかる場面で活躍し、優勝に貢献しました。慎吾選手と試合中のメンタル面の話をすることもあるのですか?

川端選手
今年はコロナであまり会うことはなかったのですが、年末年始に会えば野球の話はします。気持ちの面では、兄は凄く冷静でその場面にあったチームのためのバッティングができる選手で、そのために様々なことを考えて打席に入っているんだなと感じます。「ここはファールで粘ってフォアボールを取るべきだな」とか、「ここは初球からいくべきだな」とかそういう話とかもいろいろ聞いて、私もそういう考え方を打席の中でするように心掛けています。

小石
兄妹でそういう話ができるのは羨ましいですね。

川端選手
そうですね。父も凄い野球が大好きで、少年野球の監督をしています。ずっと長年野球をやっていて、私が子供の頃から教わっていたのも父だったので、今でも困った時は父に連絡をして、「どうなってる?」とアドバイスをもらっています。父と兄には子供の頃から教えてもらいながら、今もプロ野球を見ながら「ここはこうだな」と話しています。その中で今でも勉強しています。

小石
アドバイスをもらうことも多いのですか?

川端選手
バッティングに関しては一緒に練習することもあるので、兄が「今こういうことを意識している」ということを教えてもらったり、私のバッティングフォームを見て、「もう少しこうした方がいいんじゃない?」というアドバイスをもらいます。スイングとか似ていると言われることも結構あるのですが、兄からアドバイスをもらっているからなのかなと思います。
冬の辛いトレーニング期間こそ全力で!! 後輩選手へのメッセージ


小石
後輩の女子野球選手に向け、これだけはやっておいたほうが良いということを教えてください。

川端選手
全力でやるということです。スイング一つにしても、トレーニング一つにしても、全力を出すというのは難しいことなので、そこをどれだけ毎日意識して取り組めるかということがすごく大事だと思います。私は子供の頃から父に「手を抜くな」ということをずっと言われてきて、その言葉を大事にしてきてよかったなと今でも思っています。

川端選手
特に冬場の厳しい練習であったり、辛いランニングであったり、選手にとっては冬の期間は大事と分かっていてもしんどい期間なので、そこでどれだけ自分を奮い立たせて手を抜かずにやり切れるかということが、特に中学生高校生にとって大事なことだと思います。

川端選手
そこでやり切れた選手こそ成長できると思うので、苦しいところだとは思うのですが、踏ん張って、頑張って、いい選手を目指して欲しいなと思います。

小石
最後に、女子野球普及発展に対する思いをお聞かせください!!

川端選手
まだまだ女子野球は認知度も低くて、「これから」と言われています。長年野球をやってきた中で、全世界に女子野球の魅力を伝えていきたいなと思っています。私も長く現役を続けて、女子野球の魅力を一人でも多くの人に伝えられたらなと思います。そして、次世代の選手に技術的なことや女子野球普及の思いを伝えていくことで、次世代の選手がまた次の選手に伝えてくれると思うので、それを信じて頑張りたいなと思います。
今季4冠を達成したエイジェックの主軸として活躍した女子野球界のレジェンド・川端友紀選手はまだまだ現役を続けると話してくださいました。近年注目を浴びつつある女子野球界を長年牽引し続ける川端選手の技術や精神を次世代の選手達が引き継ぎ、全世界に女子野球が拡まっていくことに期待です!!