
「直球」「コントロール」「変化球」「長打力」「バットコントロール」「走塁」「守備」の計6部門で100人の女子野球選手にアンケート調査を行いました。
今回は変化球部門で最多票を獲得したZENKO BEAMS・田中露朝投手にお話を聞かせていただきました。

【田中露朝(たなかあきの)】
1996年6月13日生まれ。奈良県出身。
[経歴]
福知山成美高校
尚美学園大学
ZENKO BEAMS(2019-)
[日本代表歴]
2016年 第7回女子野球W杯
2018年 第8回女子野球W杯
2021年 第9回女子野球W杯(開催延期)
3度の日本代表選出歴を持ちサイドスローからキレのあるスライダーを投げる田中投手。スライダーを投げる際の意識や試合中の修正方法、キャプテンとしての役割などをお話しいただきました。
Contents
苦しい場面でも自信のあるスライダーで勝負!!


小石
今日はよろしくお願いします。

田中投手
よろしくお願いします。

小石
まずは変化球部門1位の感想をお願いします。

田中投手
まさか変化球で1位に選ばれるとは思っていなかったので、私自身びっくりしています。私はほとんど真っ直ぐとスライダーしか投げていないので、持ち味はスライダーですが、そのスライダーが選ばれたことは嬉しいです。ただ、他にも凄い変化球を投げる投手はいるので、驚きの気持ちの方が強いです。

小石
田中さんが投票するとしたらどの投手に投票しますか?

田中投手
里さんですね。実際に打席に立たないので体感したことはないですが、里さんはストレートも変化球もコントロールも一流なので憧れです。私が福知山成美高校時代に一年間だけコーチをしてもらったことがあり近い存在だったので、自然と憧れになっていましたね。

小石
スライダーとストレートの2球種で戦っている?

田中投手
そうですね。遅いスライダーと速いスライダーの使い分けはしていますが、基本はスライダーで勝負している感じです。

小石
2球種の比率はどのくらいですか?

田中投手
私の場合、真っ直ぐも落ちたり、シュートしたり、スライダーしたりするので、それを活かして真っ直ぐも多く使いますが、ここぞという場面ではスライダーです。

小石
それだけスライダーには自信を持っていると。

田中投手
はい。困ったらスライダーを投げています。真っ直ぐが入らなくなったらスライダーでカウントを取るというような。

小石
スライダーを投げ始めたのはいつ頃からですか?

田中投手
中学校の時に本格的にピッチャーを始めて、その時からずっと投げています。

小石
握りはオリジナルですか?

田中投手
そうですね。初めは教えてもらっていましたが、自分の指の長さとか指の引っ掛かり具合で、しっくりきたのがここの2個かなと思います。


小石
ピッチャーを始めた当初からサイドスローだったのですか?

田中投手
最初はオーバースローでした。私は上からのつもりでずっと投げていたんですけど、気付いたらスリークォーターになり、サイドになっていました。

小石
誰かに教わってサイドスローにしたというわけではないのですね?

田中投手
そうですね。徐々に角度が落ちてきたという感じです。中学校は軟式でそこまで疲労もなく、上から投げていたはずです。高校で硬式を始めて、疲れや故障もあったので、徐々にサイドになっていきました。今は完全なサイドだと思います。私はスリークォーターだと思っているんですけど、みんなからサイドだよって言われます。

小石
今のサイドスローとスライダーという変化球がマッチしていますよね?

田中投手
上からよりはサイドの方が指にかかりますね。スライダーはサイドの方が良いのは男子でもそうだと思うので、本当に投げ方とマッチングしているのかなと思います。
「右バッターの膝元へ投げるつもりで最後に切る」田中投手の投球の感覚は?


小石
スライダーはどのような意識で投げていますか?

田中投手
私のスライダーは「切る」イメージで投げています。横からくるスライダーで右バッターの身体を抉るような、右バッターの膝元へ投げるつもりで投げます。本当に当てるわけではないですが、右バッターに向けて投げて、最後にボールを切るという感じです。そこからインコースに入ったり、アウトコースに逃げたりという感じです。もちろんキャッチャーのミットも見て投げますが...


小石
ストライクゾーンはどのように使う意識ですか?

田中投手
高低内外を意識して投げています。変化球だったら低め、ストレートで空振りを取りたい時は高めを使います。私のスライダーは真ん中に入ることが多く、捉えらえれる時は大体真ん中なので、内と外のコースを強く意識して投げています。

小石
試合中に真ん中にいってしまう時はどのように修正していますか?

田中投手
身体の開きなどのフォームを確認することはもちろんですが、私はプレートの立つ位置を少し変えます。これはBEAMSの岡部監督に教えてもらったことで、ずっと同じ場所から投げていても同じ軌道の球になってしまうので、立つ位置も工夫しながら投げています。

小石
プレートの位置を変えると言うと?

田中投手
普段は3塁側から投げているのですが、スライダーの調子が悪くなってきたときは、ちょっと真ん中よりで投げます。


小石
ピッチング全体ではどのようなことを意識していますか?

田中投手
尚美学園時代に新谷さんに「ピッチングはリズムだ」と言われて、そこからはそのことを意識しています。高校までは一生懸命、毎球毎球全力で投げていましたが、「身体全体を使ったリズムで、毎球毎球全力ではなく、ちょっと抜くときもある」というところを新谷さんに教えてもらってからは気持ちにも余裕ができて、体力的にもそこまで疲れなくなりました。

小石
先日のクラブ選手権であそこまで投げれたのもその考えあってこそですよね?

田中投手
そうですね。初戦から結構投げていたので。最後は本当に疲れちゃって、みんなには申し訳なかったですが、新谷さんの教えがあったことで身体の疲労は少なくなったと思います。

小石
「抜く」と言っても実践はなかなか難しいとは思いますが、どのような感覚ですか?

田中投手
決め球とカウント球を意識的に分けた方がいいと思います。決め球は全力、カウント球は7-8割。毎球毎球全力じゃなくて、7割のストレートで取りに行って打たせるというようなことも必要だと思います。ランナーが出て厳しい、ここで三振が欲しいという場面は決め球で全力という意識だと思います。

小石
なるほど。投球の幅はかなり広がりますね。

田中投手
中学・高校まではミットに向かってストレートも変化球も全力で腕を振って投げるというピッチングでしたが、大学から頭を使うピッチングになったので、今の中学生・高校生はそういうことを覚えればもっとよくなるのかなと思います。
エースとキャプテンを両立「後輩選手に気を使わせない環境づくりを」


小石
エースとキャプテンを両立していて大変なことはありますか?

田中投手
めちゃくちゃ大変です(笑)ピッチャーだと動きが野手とは全く違く、ブルペンに入ってしまうと指示をしてあげられないので。副キャプテンの2人にもお願いして任せていることも多いです。キャプテンなので、試合に出ていない時も含めて、自分の調子の良い悪いで波を作らないようには心掛けています。

小石
ピッチャーから声をかけることはありますか?

田中投手
チームに気を使わせないようにするためにもコミュニケーションをとっていかないといけないので、私から発信することは多くなったと思います。なんでも言いやすい環境、言いやすい人を目指しています。試合中も「そこ飛んでくるよ」とか「そこ締めといて」と声をかけることを意識しています。

小石
若い世代も多い女子野球界でそのようなコミュニケーションは大切ですよね?

田中投手
BEAMSの年齢層は18から23が多く、私が25で年下の選手が多いので、威圧感なく後輩がやりやすい環境をキャプテンとして作っていきたいと思っています。

小石
後輩の投手に指導するということもありますか?

田中投手
もちろんあります。「ピッチャーはこういう気持ちでいた方がいいよ」とか、押し付けではなくて一つの選択肢として言うようにしています。試合後も後輩が投げて負けてしまった後のメンタルケアとか「今日はこういうところは良かったからそこを伸ばして、悪かったところを課題としてこの先練習としてやっていこう」とキャプテンとして、ピッチャーのリーダーとして後輩に接しています。


小石
代表経験も豊富な田中投手から教わることは多いと思います。

田中投手
私から何も伝えなければ私が抜けた時にチーム力が低下してしまうので、そうならないようにしたいです。持っている知識をみんなに引き継いでもらって、その選手も後輩に教えられる存在になって欲しいと思うので...

小石
指導者になりたいという気持ちはありますか?

田中投手
何年後かには指導者になっているのかな?とは思ういます。現役も後2.3年で終わるのかなと。私も来年26なので、30前には引退しているのかなと、なんとなくイメージしています。身体が動かなくなってチームに迷惑をかける前に辞めたいと思っているので…

小石
引退後にやりたいことはありますか?

田中投手
中学の保健体育の教員免許も持っているので、地元に帰って学校の先生になるのもいいなと思ったりもします。本当にやりたいかというとまだ迷っていて、模索中という感じです。

小石
最後に、後輩の女子選手に向けてメッセージをお願いします。

田中投手
野球をする中で、楽しむことは忘れて欲しくないです。嫌々やっていても成長しないと思います。野球を好きでやっているのだから楽しんでプレーすること。練習はきついですが、きつさの先に報われることがあるので、そこを楽しんで欲しいと思います!!
先発としても中継ぎ・抑えとしても安定したピッチングを見せる田中投手は、ZENKO BEAMSのエース・キャプテンとして、チームをクラブ選手権準優勝に導きました。ZENKO BEAMSは若い選手が活躍しており、田中投手がキャプテン・投手陣のリーダーとしてチームを牽引することで、来季以降さらなる躍進があるのではないでしょうか。
田中露朝投手、ZENKO BEAMSの来季の躍進に注目です!!