2017年に第1回大会が行われ、日本の優勝で幕を閉じた女子野球アジアカップ。日本からは高校生以下のU18チームが参加し、世界を相手に貴重な経験を積むこととなりました。その2年後に行われた第2会大会も日本はU18チームで参戦しています。
高校女子硬式野球部が全国各地で誕生し、国内外で試合経験を積むことができるようになっている一方で、大学女子硬式野球部の少なさや、女子選手が高校卒業後に選択できる進路の少なさは女子野球界の課題の一つでもあります。
今回は高校3年生で日本代表を経験し、日体大男子野球部の練習生、ハナマウイ女子硬式野球部のクラブ生という選択した阿部希選手にお話を聴かせていただきました。
写真:本人提供
【阿部希(あべのぞみ)】1999年5月9日生まれ。宮城県出身。
地元少年野球チームに所属していた兄の影響で小学校2年生から野球を初め、女子野球の名門・福知山成美高校に進学。高校3年時にはU18で構成された第1回アジアカップ日本代表として初優勝に貢献。翌年のトップチームにも選出され日本代表のW杯6連覇に貢献した。大学進学後は日本体育大学男子硬式野球部の練習生としての練習とハナマウイ女子硬式野球部のクラブ生としての活動を両立し、4年目のシーズンを終えた。
[日本代表歴]
2017年第1回アジアカップ
2018年第8回ワールドカップ
<インタビュアー:小石涼(megaphone編集長)>
日本代表2大会で感じた世界の女子野球とレジェンド選手たちとの差
川端友紀選手と阿部希選手(写真:本人提供)
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小石
今日はよろしくお願いします!!
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阿部選手
よろしくお願いします!!
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小石
阿部さんは2017年のアジアカップ、2018年のW杯のに大会で日本代表を経験しているんですよね?
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阿部選手
はい。高校3年生の時にU18で構成されるアジアカップ、その翌年に女子野球W杯に参加しています。
写真:本人提供
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小石
第1回アジアカップ全体を通して感じたことはありますか?
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阿部選手
アジアカップが私の代から始まった大会だったので、運も良かったなと思いますし、選んでいただいてありがたかったなと思います。ただ、日の丸を背負って戦うという重さはわかっていなかった、今考えると幼かったなと思います。
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小石
それはどういったところでですか?
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阿部選手
試合に入る準備とかが今考えるとすごく甘かったなと思います。選手も全員高校生だったので、“指導者の方々に背中を押されて押されて”という形でやっていたなという印象があります。結果的には優勝できましたが、先行された展開で自分たちでどうにかできるわけでもなく、指導者の方々に鼓舞されて、そこでやっと気付いてという戦い方だったので、選手としては凄い幼かったなと今感じます。
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小石
海外自体が初めてという選手がほとんどで浮き足立っていた部分もあった?
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阿部選手
そうですね。なんかわちゃわちゃしてました(笑)
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小石
初めて世界を相手に戦って、海外の女子野球について感じた部分はありますか?
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阿部選手
日本は本当に恵まれているなと感じました。戦った国の中にはスパイクがなくランニングシューズで試合をしている国もありましたし、バットもあまりない。日本はユニフォームを全部支給されて、トップチームと同じユニフォームを着ることもできた。日本の中で見るとまだまだマイナーなスポーツですが、世界に出るともっとそうなんだなと感じました。
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小石
翌年に参加したW杯でアジアカップの時と違いを感じた部分はありましたか?
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阿部選手
1回目の練習に参加した時から、アジアカップの時の雰囲気とは全然違うなということを感じました。レジェンドの方々がいて、チームをまとめて、私たちを引っ張ってくれるので、私自身も「日本代表とはこういうものなのか」という雰囲気を感じました。
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小石
上の世代がいるとチームの雰囲気は全く違うものですか?
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阿部選手
やっぱりキャプテンの出口さんであったり、野手でいうと川端さん、投手でいうと里さん。そういった上の世代の方々が引っ張ってくれて、声をかけてくれたので凄いなと思いました。
出口彩香選手・川端友紀選手とノックを受ける阿部選手(写真:本人提供)
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小石
女子野球界のレジェンドたちとプレーしてどのようなことを感じましたか?
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阿部選手
日本代表は優勝はしましたが、個人的な嬉しいという感情はほとんどありませんでした。大会を通して味わったことのないプレッシャーに押しつぶされてしまって、自分の力はこんなものなんだなと。悔しさといか情けなさというか。悔しいまでも辿り着かないくらい大会を通していい思い出はなかったです。里さんや川端さんのようにそういう舞台で下の子たちを引っ張っていきながら自分自身の実力が出せるレベルまでは程遠いなと大会を通して感じました。自分の中でまだまだ先は長いなと思いました。
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小石
それがその後のモチベーションにもなっている?
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阿部選手
そうですね。最初は遠すぎるなと思うのが精一杯だったのですが、時間が経ってもう一度代表を目指したいと思った時にそういう選手になっていかなければならないので、W杯の代表で感じたことを忘れずにそこに向かってやっていかなければならないなと今は思っています。
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小石
現役で続けているうちはもう一度日本代表になりたいと思いますか?
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阿部選手
はい、目指したいと思います。「当時の出口さんや川端さんのように」とはまだ言える立場でもないですが、技術的な部分はもちろん、色々他の部分も磨いていかなければと思います。
写真:本人提供
高校3年生・大学1年生という若さで日本代表として2大会を経験した阿部選手。次項では野球を始めたきっかけや高校進学までの経緯について聞いてみました。
小学2年生で野球を初め、女子野球の名門・福知山成美高校に進学
写真:本人提供
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小石
阿部さんが野球を始めたきっかけを教えてください。
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阿部選手
私はその時小学2年生の時に、3つ上の兄が少年野球を始めました。それで、兄の少年野球についていき観ていました。観ているうちに私もやりたいなと思うようになり2年生の5月くらいに始めました。
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小石
お兄さんの影響を受ける女子選手は多いですよね。
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阿部選手
そうですね。兄がサッカーをやっていたらサッカーだったと思いますし、違うスポーツならそのスポーツだったと思います。他の選手も大体兄弟がということが多いですね。父や兄の影響ということが多いです。
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小石
そのチームには他にも女子選手はいましたか?
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阿部選手
2年生で入った時に上に3人いました。なのですごく入りやすい環境ではありました。
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小石
女子選手が3人もいるのは珍しいですね。
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阿部選手
仙台市の5つの区でそれぞれ女子選手を集めて区対抗の試合を毎年行っていたので、周りには割と多かったと思います。
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小石
中学校でも男子と共に野球を続ける道を選択したわけですね?
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阿部選手
私の行く学区の中学にソフトボール部がなくて、少し離れた中学校にいけばソフトボール部はあったのですが、やはり野球をやりたいと思っていました。兄がその中学校の野球部に入っていたので、監督さんにお願いして野球部で男子と一緒に野球続けました。
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小石
中学校でも男子と共に野球を続け、高校では地元を離れ女子野球部へ。高校進学の経緯を教えてください。
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阿部選手
今は宮城県にもクラーク(記念国際高校)がありますが、当時は県内に女子野球部のある高校がなく、県内の高校で男子硬式野球部に入るか、県外で女子硬式野球部に入るかという選択でした。男子野球部に入る場合、どんなに練習しても公式戦には出られないので、女子野球部で野球をしたいと思い、いろんな高校を見て回って、京都の福知山成美高校に進学を決めました。
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小石
福知山成美に決めたポイントは?
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阿部選手
まずは寮があるということでした。寮がある高校を何校か回って、一番環境が整っていたり、練習に参加した時の雰囲気が良いことから決めました。福知山成美高校は進学コースも選ぶことができたので、野球だけではなくて大学進学ができる環境があるということも魅力的でした。
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小石
その当時から大学進学や将来の目標は決まっていたということですか?
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阿部選手
そうですね。中学校の時から教員志望ではあったので、大学に進学して教員免許を取ろうと考えていました。
日体大男子野球部で技術を磨き、ハナマウイ女子硬式野球部では日本一に貢献
写真:本人提供
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小石
その後、女子硬式野球部はない日本体育大学に進学していますが、大学選択の決め手はなんだったんですか?
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阿部選手
中学校の時から教員志望で、一番は体育の教員免許と特別支援の教員免許を取りたいというところでした。それに日体大が当てはまっていました。まずは野球よりも先に自分の進路にあった大学を選んだという感じです。もちろん野球はやりたいと思っていましたが、大学が決まった後に考えようと思っていました。
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小石
大学進学後はクラブ生としてハナマウイに入部されていますが、それはいつ頃決めたことですか?
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阿部選手
高校の11月頃には決まっていました。大学受験が一般だったので、その段階ではまだ受かるか分からなかったんですけどね(笑)
写真:本人提供
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小石
関東県内で他にもチームがある中でハナマウイに決めたポイントは?
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阿部選手
高校時代に監督である長野監督に相談をした時、「周りにしっかりしている人たちがいるチームがいいよ」と言われました。当時ハナマウイには出口さんがいたので、「技術的にも人間としても素晴らしい選手だからついていくのはどうだ?」とも言われました。ハナマウイは私が入る1年前にできたチームで、人数が10人の創部1年目に全日本選手権・クラブ選手権で3位という成績を残していました。創部1年目からすごい成績を残していて出口さんもいるチームで日本一を目指したいなと思い、入部を決めました。
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小石
入部して1年目で早速日本一という目標を叶えられたわけですね?
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阿部選手
そうですね(笑)
写真:本人提供
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小石
日体大男子野球部の練習生としての活動することになった経緯を教えてください。
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阿部選手
最初は知り合いの繋がりで、家の近くの高校で練習させてもらうことが決まっていたのですが、一ヶ月くらいやってみたなかで、別の場所で練習していることも多く、毎日練習できる環境ではないなと気づきました。そこで、日体大の男子野球部で練習できないかという案が上がりました。その前の年に大学日本一になったチームなので、そのチームで練習を一緒にやるとなると、ついていけると思えなかったし、受け入れてくれないだろうと思ったので、最初は少し気が引けていました。母に「じゃあどうするの?練習しないの?」と後押しされ、ダメ元で日体大の監督さんにお願いしたところ、快く承諾して下さって、私がやりやすい環境を作ってくださいました。
写真:本人提供
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小石
練習にはどのように参加しているのですか?
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阿部選手
野手は1軍・2軍・3軍と別れていて、1軍はリーグ戦に向けて連携プレーや実践的な練習が多いので、自分の練習に当てる時間が取れる2軍で4年間練習させていただきました。
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小石
練習環境はすごく整っていますよね?
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阿部選手
立派な球場ですし、地下でバッティングもできますし、内野が取れるサブグラウンドもあるので、すごく良い環境で練習させてもらっていました。
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小石
日体大での4年間はどうでしたか?
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阿部選手
最初はみんなに珍しがられましたが、先輩・同級生・後輩が凄く良い人たちばっかりだったので、女子だからということで苦労した点はなかったです。体力的な部分で、ランニングメニューの目標タイムをきれなかったりとかはありましたけど、周りにやりやすい環境を作ってもらうことができたので、人間関係で苦労したことはなかったです。ハナマウイも日体大も周りに恵まれてすごく楽しかったです。
写真:本人提供
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小石
今年度で大学を卒業ですが、今後はどのように考えていますか?
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阿部選手
大学で教員免許を取得し、将来的には指導者として女子野球の普及に貢献していきたいとは考えていますが、選手としてできるところまでは続けたいと思っています。
「女子野球は女子野球で発展を!!」異色な経歴を持つ阿部選手の思い
写真:本人提供
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小石
今後の女子野球界発展に向けた思いやご意見をお願いします。
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阿部選手
女子野球は女子野球で盛り上げたいなという思いはあります。今、男子の野球と比較して「女子野球の魅力ってなんですか?」と聞かれた時に、困る選手は多いと思うので、女子ならではの魅力や武器を作っていくことが現役選手の使命ではないかと思います。男子とは違った面白さを女子野球界が一丸となって売り出していくというような...
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小石
女子選手の活躍の場ももっと増えればいいですよね。
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阿部選手
私自身が男子のなかでやっているので説得力はないかもしれませんが、本来は女子野球がもっと普及して、私のように男子と一緒にやるという選択肢がないくらいになればいいなとは思います。今は高校生とかでも「男子の中でやることが凄い」みたいになってはいますが、女子野球としてはそれを作らないことが1番なのかなと思います。そこが女子野球が今目指すべきゴールなのかなと。
近年増加傾向にあった高校女子野球部は、今夏の甲子園開催でさらに注目を集め、全国各地の高校で女子野球が誕生しています。しかしその波は大学にまでは届いておらず、全国に8校しか女子硬式野球部を持つ大学はありません。
今回取材にご協力いただいた阿部選手は「女子選手は女子野球でやることが一番」と話していましたが、全ての選手がそうなることは難しいのが現状です。その中で、大学男子野球部での練習と社会人女子野球チームでの活動を両立さている阿部選手の存在は、高校生や大学生の女子選手の選択に影響を与えることだと思います。
阿部選手が言うように、将来的には男子の中で活動する女子選手がいなくなることが理想だとは思います。しかし、「野球をやりたい、続けたい」と思う選手がどんな形でも選手を続けることで女子野球界発展の礎となり、より良い環境ができていくことだと思います。
megaphoneではこれからも、さまざまな形で野球を続ける女子選手を取り上げ、応援していきたいと思います!!