第17回全日本女子硬式クラブ野球選手権大会〜大会を終えて〜

今年会場を成田市・佐倉市に移し、8月26日に開幕した第17回全日本女子硬式クラブ野球選手権大会。全国から34チームが参加した今大会は、再三の雨天中断・延期がありながらも全日程を消化し、阪神タイガースWomenの初優勝で幕を閉じました。

今大会は初日・2日目で1時間以上の試合中断、3日目は試合続行不可能となり翌日に延期となるなど、天候には恵まれない大会に。昨年の全日本選手権では連日の悪天候で2チーム優勝で終わるなど、日程を消化できないこともある女子野球。

今大会も初日から1球場5試合が組まれる過密日程に加え、初日から豪雨でグラウンドは土が見えないほどの一面水浸しに。日程が消化仕切れないことも懸念されましたが、試合中や次の試合を待つチームの選手や監督、球場スタッフや運営ボランティアが一体となってグラウンド整備を行い、全日程を消化

球場や日程の確保の面ではまだまだ課題が多い女子野球ですが、大会関係者全員が「限られた日程・条件の中でベストを尽くそう」という気持ちで行われた大会だったと感じました。

阪神タイガースWomenが初優勝 大会結果・個人表彰

優勝:阪神タイガースWomen

昨年、NPB公認チームとして始動した阪神タイガースWomenが初優勝。創設1年目から全国トップレベルの戦力を要していた阪神は昨年のクラブ選手権ではNPB対決となった西武との戦いに惜敗し、初戦敗退という悔しい結果になった。

地方予選なしで34チームが参加となった今大会、阪神は2試合しかない1回戦を戦う組み合わせとなったが、4日間で6試合という超過密日程を7人の投手が登板し戦った。チーム打率.371、チーム防御率1.29と、投打が非常に高いレベルで噛み合い、初の全国制覇を勝ち取った。

阪神タイガースWomen 優勝までの勝ち上がり
1回戦:7-0 新波
2回戦:9-2 アサヒトラスト
3回戦:7-0 マドンナ松山
4回戦:5-0 京都文教大学
準決勝:5-2 埼玉西武ライオンズ・レディース
決勝戦:5-3 九州ハニーズ

準優勝:九州ハニーズ

川端友紀・楢岡美和によって今年1月に立ち上げられ、昨年の全国優勝メンバー5名を擁する九州ハニーズが準優勝。九州ハニーズは主将の長池玲美菜をはじめ、コロナの影響で大会途中からの合流となり、13人の選手全員が揃ったのは決勝戦。初戦は投手の百田陽菜も打席に立つ全員野球で準決勝までの4試合を勝ち抜いた

東海NEXUS戦では最終回に小島也弥のタイムリーで同点に追いつき、延長8回にサヨナラ勝利。準決勝のZENKO BEAMS戦では7回2死2ストライクから主将の長池に逆転の三塁打が飛び出し勝利。「ミラクルハニーズ」と呼ばれ、大会初参加にして全国各地の強豪チームを撃破し、準優勝となった。

九州ハニーズ 準優勝までの勝ち上がり
2回戦:17-1 Srius
3回戦:5-4 東海NEXUS
4回戦:1-0 淡路BRAVEOCEANS
準決勝:2-1 ZENKO BEAMS

全日本選手権出場を決めたベスト8進出チーム

昨年まで8月10日前後に開催していた全日本選手権。10月開催となった今季のクラブチーム出場枠は14チーム。今回のクラブ選手権でベスト8以上の結果を残した8チームがまず出場枠を勝ち取った(残り6枠は推薦により決定)。

3位:埼玉西武ライオンズ・レディース
3位:ZENKO BEAMS
ベスト8:エイジェック
ベスト8:京都文教大学
ベスト8:淡路BRAVEOCEANS
ベスト8:ゴールドジム

昨年全国2大会を制したエイジェックは準々決勝で西武に惜敗したものの、全日本選手権への切符は勝ち取った。クラブ選手権での雪辱を果たし、連覇を成し遂げることができるだろうか。

他7チームは全日本選手権での優勝はこれまでない。一昨年のクラブ選手権以来の全国制覇を目指す埼玉西武LL、クラブ選手権では準優勝・3位と2年連続で好成績を残すZENKO BEAMS、元女子プロ野球選手も擁し今季は“クラブチーム”として戦う京都文教大学、エース・古谷恵菜を筆頭に3試合1失点の高い投手力を誇る淡路BO、ジャイアンツからの助っ人4名と共に戦うゴールドジムが初優勝を狙う。

個人表彰

大会MVP:前田桜茹(阪神タイガースWomen)
優秀選手:楢岡美和(九州ハニーズ)
敢闘賞:里綾実(埼玉西武ライオンズ・レディース)
敢闘賞:泰美勝(ZENKO BEAMS)

大会MVPは1番レフトで全試合フルイニング出場で優勝に貢献した前田桜茹が受賞。前田は打率.500、長打率.778の大活躍。決勝戦でも先制点を含む3得点を記録するなど、1番打者としての役割をこれ以上ないほどにこなし、チームを優勝に導いた。

優秀選手賞は九州ハニーズの4番打者を務め、投手としても2試合に登板した楢岡美和が受賞。楢岡は打率.364、長打率.545、7打点、投手としては防御率0.62、淡路BO戦では完封勝利をあげるなど、投打にわたっての大活躍。少人数で決勝戦まで勝ち上がったチームに大きく貢献した。

敢闘賞は共に奄美大島出身の里綾実・泰美勝が受賞。両投手は先発やロングリリーフ、緊迫した場面など、あらゆる場面での登板を苦にせずに好投を披露し、チームの3位入賞に貢献した。

編集長個人的ベストゲーム:Amazing vs 埼玉西武ライオンズ・レディース

今大会はナスパスタジアムで行われた全試合、大谷津球場での決勝戦の計12試合を観戦しました。その中ではAmazing vs 埼玉西武ライオンズ・レディースの一戦が個人的に印象に残る一戦でした。

埼玉西武LLは一昨年のクラブ選手権覇者。里綾実・出口彩香・岩見香枝・清水優花と4名の日本代表選手を擁し、今季ヴィーナスリーグでは負けなし、大会直前に行われた栃木さくらカップでも優勝している強豪チーム。

一方のAmazingは元社会人野球選手で現在は野球塾〜Amazing〜の運営、YouTubeで野球技術動画を配信する“ミノルマン”こと廣畑実が監督を務め、「1年で日本一」を目標に掲げ、今季限定で活動する今大会のダークホース的存在のチーム

試合は初回、先頭の主将・谷川愛が四球で出塁し、2本の進塁打で三塁まで進むと、4番長井すずがタイムリーを放ち、Amazingが先制する。

追う展開となった西武は5回裏に先頭の主将・出口彩香が四球からチャンスを広げ、1番清水優花のスクイズで同点とすると、続く6回にも先頭打者の3番豊巻翔子の三塁打、4番英菜々子の犠牲フライで逆転に成功する。

土壇場でリードを許したAmazingに残るは最終回の攻撃。先頭の永池千晶が内野安打で出塁するも二死まで追い込まれた後、松村美希が四球を選ぶと、続く岩﨑友姫に走者一掃の二塁打が飛び出す。ここまで粘り強く好投を続けていた西武の先発・長尾朱夏を捉え、一気に逆転に成功する

再びリードを許した西武はここでエース・里綾実が登板すると、三球三振を奪う。貫禄の投球でAmazingに傾きかけた流れを一気に引き戻した

一転して後のない状況となった西武の最終回の攻撃は再び主将の出口が先頭打者に。「ああいう場面では先頭バッターが出ることで一気に流れが変わる。普段であればバスターの構えはしませんが、いかにピッチャーにプレッシャーをかけるかを考え、バスターを選択しました。」と出口主将。執念で四球をもぎ取り出塁すると、流れは再び西武に。後続の六角彩子・田中美羽の打球をAmazing守備陣はアウトにすることができず、最後は1番清水が二遊間を破る安打を放ち、サヨナラ勝ち。白熱のシーソーゲームをものにした。

1年間限定の活動で日本一を目指すAmazingとNPB公認チームの埼玉西武LLとの激戦。スコアボードを見ただけでも好ゲームだったことは分かりますが、初めて見たAmazingの予想以上のチームとしての完成度、日本代表の主将も務める出口選手の打席での気迫、流れに乗った西武ベンチの一体感など、この試合を現地で観戦することができて良かったと思える試合でした

女子野球の更なる発展に向けて... 高校生・大学生相手との戦いにも注目

決勝戦前、バルーンリリースセレモニーの様子

今回、初めて成田市・佐倉市での開催となった全日本クラブ選手権。地方予選がなく、全国から34チームが参加した今大会は、終盤での逆転や延長戦にもつれる戦いなど、手に汗握る好ゲームがたくさんありました。

高校女子野球も2年連続の甲子園開催で注目を集め、全国各地の高校に女子野球部が誕生するなど、盛り上がりをみせていますが、クラブチームも年々チーム数は増え、レベルも上がり続けています。

今年は10月開催となり、クラブチームからは14チームが参加する全日本選手権。高校・大学も参加するこの大会は、昨年までの成績を見ると大学勢の活躍が目立ちます。

高校生や大学生の憧れとなるような強くて魅力的なクラブチームの存在は女子野球の更なる発展に必要不可欠です。例年とは大会の開催時期や方式が変わった全日本選手権で、今回のクラブ選手権で上位成績を収めたクラブチームが高校・大学相手にトップレベルの戦いを見せてくれることに期待です!!

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