
今年、女子野球界は、新たな歴史を刻みました。第25回全国高等学校女子野球選手権大会の決勝戦が、甲子園球場で行われたのです。本大会は、兵庫県丹波市にある、つかさグループいちじま球場を舞台に、毎年7月末から8月にかけて行われています。3年生にとっては、いわゆる最後の夏。高校野球の集大成となるだけに、甲子園という舞台を用意されたことがどれほど嬉しいことなのかは、想像に難くありません。
8月23日、甲子園球場は、これから行われる決勝戦を前に、どことなく緊迫したムードに包まれていました。前例のないことに期待と不安とが入り混じり、『甲子園での試合は、どんな風になるのか……』そんな台詞が聞こえてきそうな雰囲気でした。

そんな中、アルプス席横のプロ野球ならリリーフカーが通る通路から選手たちが入場してきました。列をなして一人ひとりが一礼してグランドに入り、ベンチまで歩いてくる姿は凛としていて、全国の女子選手たちの願いを一身に背負う代表のようにも見えました。「さあ、いよいよ新しい歴史が始まる」。まさに扉が開いた音がしたように思えましたが、気のせいだったでしょうか。
試合は、実績十分の神戸弘陵高校が、創部3年目と若い高知中央高校を4対0で下し、2度目の優勝を飾りましたが、見応え十分でした。神戸弘陵の2年生エースの日高結衣さんの120キロ越えのストレートや、各打者の鋭いスイングなど、野球の面白さはもちろんのこと、試合前、ベンチアウトの控え選手たちとスタンドのフェンス越しに円陣を組んで歌を歌い、試合中はベンチが揃った応援をし、得点すると全員が全身で喜びを表現するなど、普段通りの姿を見せ、女子野球の魅力はいかんなく伝わったのではないでしょうか。僭越ながら、彼女たち立派でした。

記念すべき初の甲子園優勝校となった神戸弘陵高校・石原康司監督は、試合後の会見で「甲子園で試合ができて夢のよう。感無量です。開催を実現してくださった関係者のみなさんに感謝の気持ちでいっぱいです」と話しました。また、「これからも女子野球の底辺が広がり、甲子園を目指す選手が増えると信じています」とも言いました。そういえば、2年前の夏に「女子も甲子園でやれたらいいですね」とお声がけすると「こうして全国大会ができるだけでもありがたい。女子の夏の聖地は、市島だっていいじゃないですか」と仰いましたが、先のコメントを聞いたとき、あれは生徒を思っての言葉だったことに気づきました。

また、後日、高知中央・西内友広監督に甲子園で戦った感想を尋ねると、「甲子園には魔物がいるとはよく言ったもので、実際に試合をする前と後では甲子園という存在のとらえ方が180度変わった。これは行った者でないとわからないし、これからも我々にとって目指せる場所であって欲しい」と答えました。
甲子園球場で女子野球が行われたという歴史は刻まれました。そう遠くないうちに甲子園が当たり前となることを願いつつ、今後、女子野球がどのように発展していくのか、大いに注目していきたいと思います。
